「今月は問い合わせが少ない」 ー 不確実性との向き合い方
「今月は問い合わせが少ない。何か手を打った方がいいのではないか」
事業をしていれば何度も向き合う問いだと思います。
数字が下がれば原因を探したくなる。何かを変えれば少し安心できる。その感覚は自然です。
ただ、数字が動いたときそのすべてに「直すべき原因」があるとは限りません。
本当に状況が変わったのか。それとも、同じ状況の中で起こるたまたまのばらつきなのか。
この見極めによって、使うべきお金も取るべき行動も変わります。
「平均」は毎日起こる数字ではない
例えば、都内で1日に起こる交通事故の件数を考えてみます。
仮に事故が平均して1日5件起きているとします。(これは説明のための仮定で、実際の統計ではありません。)
平均が5件でも毎日きっちり5件起きるわけではありません。2件の日もあれば、8件の日もあるでしょう。
8件の日だけを見て「道路が危険になった」と判断できるでしょうか。
翌日2件に減ったら「安全対策が効いた」と言えるでしょうか。
天候や交通量が影響しているかもしれませんし、偶然のばらつきかもしれません。
1日の件数だけでは、見分けがつきません。
事故を1件でも減らす努力は必要です。ただ、そのためにも件数の増減から何が言えるのかを慎重に考える必要があります。
平均から外れたことと、何か異常が起きたことは同じではありません。
人間の感覚はばらつきを非常に小さく見積もる
公平なコインを3回投げて、すべて表になる確率は8分の1です。
思っているよりも偏った結果は起こります。
「起こった」という事実が確率が少ないことを忘れさせるバイアスにもなります。
頭では分かっていても実際に直面するとそのことを忘れがちです。
商談が3件続けて失注すれば提案の仕方を疑う。
売上が数日落ちれば商品が飽きられたのではないかと考える。
もちろん、その可能性はあります。
ただもっともらしい説明が思いつくこととその説明が正しいことは別です。
例えば成約率が5%の営業でも、
100人に営業して成約が2件以下に終わる確率は約12%あります。
実力が変わっていなくても結果が半分以下になることはあるのです。
そこで慌てて仕組みを作り直せば、本来は必要のなかった費用が発生するかもしれません。
仕組みを変えたことでかえって悪化するかもしれません。
「まだわからない」状態を選択肢に含める
留意したいのは「悪化したと確認できない=問題がない」には置き換えないことです。
データが少なければ本当に悪化していても見抜けません。
不確実性のある物事に対して判断には「良い」「悪い」に加えて、「今の情報ではまだわからない」が必要です。
これは判断の放棄ではありません。
何を追加で確認すれば判断できるのかを明確にするための原点です。
比較する期間を延ばす。客数や天候など条件の違いを確かめる。集計ミスや現場の不具合がないかを見る。
一方で設備の故障や受付の停止など明確な原因確認できたなら、データが増えるのを待たずに直せばよい。
数字の分析と原因の仮説。その両方があって次に取るべき行動が明確になります。
変えることにも待つことにも見えないコストがかかる
常に平均以上にならないと慌てて商品を変える。研修を増やす。システムを入れ替える。
そこにはお金も時間もかかります。本来うまく機能していたはずのものを壊してしまう可能性もあります。
一方、判断を待ち続けることにも費用があります。本当に問題が起きていればその間も損失は増えていきます。
正しく認識することが余計な出費を減らす
こうした判断を厳密に行うには、確率分布や仮説検定など大学で学ぶような統計の知識が必要になる場面もあります。
とはいえ現実社会において答えたい問いは具体的です。
今、この瞬間、コストをかけて直すべきなのか。もう少し確かめるべきなのか。直すならどこがセンターピンなのか。
その判断のために専門知識を使います。
現状をできるだけ正確に捉え、必要なところに、必要な手を打つ。
数多くの失敗例を見てきたから同じ轍は避けることができる。
地味に見える分析や確認が、結果として最も安く済む方法になることがあります。
次の手を打つ前に目の前の数字から何が言えて、何がまだ言えないのか。
正しく判断することがROIの損失を防ぎます。