AIの精度は食わせるデータで決まる
「AIに任せれば、あとはうまくやってくれる」——
最近は、この考え方が必ずしも間違いではなくなってきました。
Web広告では、どの人に、どの広告を、いくらで配信するのか。
需要予測では、いつ、どの商品が、どの程度売れるのか。
膨大な組み合わせを細かく比較し、一定の目的に向かって最適化する能力については、すでに人間よりアルゴリズムの方が優れている場面が多くあります。
人間が、数万、数百万通りの組み合わせを毎秒比較することはできません。アルゴリズムに任せた方が速く、細かく、感情にも左右されません。
ただし、ここには一つ大きな前提があります。
アルゴリズムに渡しているデータが、正しいことです。
AIは正しい目的を自分で決めてくれない
AIは、与えられたデータと目的に沿って答えを出します。
何を正解とするのか。
どの情報を参照させるのか。
古い情報をいつ更新するのか。
こうした前提まで、AIが自動的に決めてくれるわけではありません。
誤った地図を渡されたナビは、計算能力がどれほど高くても、正しい目的地にはたどり着けません。
むしろ処理が速いほど、間違った目的地へ、より効率的に向かってしまいます。
AIの性能が高くなるほど、何を食わせるかという人間側の設計が重要になります。
低質なデータが最悪な結果をもたらすケースも
2026年2月、イラン南部ミナーブにある女子小学校が、米軍による可能性が高いミサイル攻撃を受け、多数の児童らが亡くなる事故が起きました。
この学校は、かつてイラン革命防衛隊の施設と同じ敷地内にあったとされています。しかし、衛星画像の分析では、2013年から2016年ごろまでには軍事施設から塀で分離され、その後は学校として使われていました。
それにもかかわらず、標的を作成する際に、学校への転用が反映されていない古い情報が使われた可能性が報じられています。
米軍の対イラン作戦では、パランティアが開発したMaven Smart SystemというAI・情報分析基盤が広く使われていました。
ただし、Mavenがこの学校を標的として直接選定したのか、AIがどの段階に関与したのかについては、現時点では公的な結論が出ていません。米国議会からも、AIの使用状況や人間による確認の有無について説明を求める書簡が出されています。
したがって、「AIが古い画像で学習したため、学校を誤って攻撃した」と断定するのは正確ではありません。
より本質的な問題は、古い情報が正しいデータとして残り、現在の状況との照合が十分に行われないまま、意思決定の仕組みに流れ込んだ可能性があることです。
これはAIだけの問題ではありません。データの収集、更新、統合、確認までを含めた、仕組み全体の問題です。
デジタルでも同じことが起きる
もちろん、事業におけるAIの失敗が、直ちに人命に関わるわけではありません。
しかし、構造はWeb広告でも同じです。
よくある例として、「サイト上のボタンのクリック」をコンバージョンに設定したとします。
アルゴリズムは、問い合わせが増えるように配信してくれるでしょう。
ところが、実際にはボタンを押しただけで送信しなかった人や、誤ってクリックした人まで成果として記録されていたらどうなるか。
アルゴリズムは故障していません。
与えられたデータに忠実に、問い合わせにつながりにくいユーザーを集め続けます。
また、問い合わせ件数だけを広告媒体へ返し、その後の商談化や成約の情報を返していなければ、アルゴリズムは「安く問い合わせる人」と「実際に購入する人」を区別できません。
結果として、管理画面上の成果は増えているのに、売上は増えないということが起こります。
このとき見直すべきなのは、入札単価やターゲティングの細かな設定だけではありません。
何を成果として計測し、どのデータをアルゴリズムに返しているかという、手前の設計です。
今一度3つのことを確認する
AIやアルゴリズムを導入するとき、少なくとも次の三つは確認する必要があります。
食わせているデータの質は良いか
記録されている数値は正しいか。
古い情報が残っていないか。
重複や欠損がないか。
本当に知りたい成果を表しているか。
データが存在していることと、そのデータが使えることは同じではありません。
大量のデータがあっても、定義が曖昧であったり、更新されていなかったりすれば、誤った判断の材料になります。
データの量は十分か
データは、ただ多ければよいわけではありません。
判断したい対象を十分にカバーできているかが重要です。
例えば、数件の問い合わせだけをもとに、顧客全体の特徴を判断することはできません。
成約した人のデータしか残っていなければ、成約しなかった理由もわかりません。
必要なのは単純な行数ではなく、AIに任せたい判断に対して、十分な事例と幅があることです。
他にベストな設計はないか
同じデータであっても、与え方によって結果は変わります。
どの数値を最終目標とするのか。
どの単位でデータをまとめるのか。
どの期間の情報を使うのか。
どの段階で人間が確認するのか。
問い合わせ件数を増やしたいのか、商談を増やしたいのか、最終的な利益を増やしたいのかによって、最適なデータ設計は異なります。
「AIを導入した」という事実よりも、AIが正しい判断をできる構造をつくれているかの方が重要です。
AI時代における競争力は、最も新しいAIを導入しているかどうかだけでは決まりません。
日々の数値を正しく計測する。
データの定義をそろえる。
古い情報を更新する。
施策の結果を次の判断に戻す。
こうした地味な整備を続けられるかどうかが、最後には大きな差になります。
私たちがWeb施策のご相談をいただいたとき、最初に計測環境を確認するのもそのためです。
データを眺めるためではありません。広告やAIが、正しいものを学習できる状態をつくるためです。
AIがうまく機能していないと感じたとき、アルゴリズムを疑う前に、まずは問い直してみる必要があります。
私たちは、AIに何を食わせているのでしょうか。